フランスの画家エドガー・ドガ(1834‐1917)はパリのブルジュワ階級の家庭に生まれ、幼少のころからバレエを見にオペラ座に通っていました。当時のオペラ座のバレリーナたちは身分の低い階層の出身者も多く、生活のために情婦としてブルジュワのパトロンに保護されることも稀ではありませんでした。社会的にもそれは公然の秘密でした。ドガの絵にしばしば登場する黒いタキシードを着た人物像はそれら「バレリーナの擁護者達」なのです。
ドガの創造意欲を掻き立てたものはその動きとともに、トゥシューズとチュールでできたバレリーナのチュチュでした。ナポリのバレエマスター、カルロ・ブラシはチュール生地のチュチュを考案し、それがロマンティックバレエの発展に大きく貢献することになります。どちらも当時はまだ製品としても最新の技術を駆使したものでしたから、ドガは結構新しもの好きだったのでしょう。ただ、ドガの絵がそれらの新しい製品を紹介するといった、歴史の記録としての絵画なのであればそれは写真に取って代わられていたことでしょう。今日もなおそれが人々の興味をひくものであると言うことは、それだけ何かがそこに描かれているからといえるでしょう。
なぜ踊るのか?
その何か、そしてドガの真のテーマはそこにあったといえます。
自身の芸術を極めるため、毎日の訓練を黙々とこなすダンサー。
その傍らでこれまた来る日も来る日も淡々と筆を走らせる絵描き。
そこにドガは芸術の分野や社会的身分は違っても、同じ芸術家として強く共感していたのでしょう。